「膝が反対側に折れそうな感じがする」
そんな不思議な感覚を訴える患者さんが来院されました。
痛みはそれほど強くないのに、なんとなくおかしい。しかも思い当たることといえば、10年以上前の登山で下り坂を駆け降りたこと——。
実は、この「時間差で出てくる膝の違和感」、ハムストリングス(太ももの裏側の筋肉)のダメージが深く関わっていることがあります。
下り坂って、思っている以上にハムストリングスを痛める
登山の「下り」は足腰に優しそうに感じるかもしれません。でも実は、筋肉への負担という点では上りよりもずっとダメージが大きいのです。
その理由が、「遠心性収縮(えんしんせいしゅうしゅく)」という筋肉の働き方にあります。
筋肉の収縮には大きく2種類あります。
- 求心性収縮:筋肉が縮みながら力を発揮する(荷物を持ち上げる動作など)
- 遠心性収縮:筋肉が伸びながら力を発揮する(ブレーキをかける動作)
下り坂を歩くとき、私たちの体は重力に引っ張られながら一歩一歩ブレーキをかけています。このとき下肢の筋肉は引き伸ばされながら力を出す「遠心性収縮」という状態になっており、ハムストリングスもこの強い負荷を受け続けています。
遠心性収縮は通常の筋収縮に比べて筋線維へのダメージが大きく、健常な若年男女を対象にした実験でも、下り坂歩行は上り坂に比べて翌日の筋肉痛が有意に強く、心拍数や主観的疲労感が低いにもかかわらず筋ダメージが大きかったことが報告されています(Kawanishi et al., 2018, The Journal of Physiological Sciences)。
特に急な斜面を駆け降りる場合は、そのダメージがさらに増します。
なぜ「膝」の症状として出るのか
膝が痛い、膝に違和感がある——そう聞くと「膝関節そのものに問題がある」と思いがちです。でも実際には、膝の周囲の筋肉や腱のトラブルが原因で、膝の症状として感じられるケースは少なくありません。
ハムストリングスはまさにその代表例です。太ももの裏側を走り、膝の裏側に付着しているこの筋肉が傷つくと、膝関節を安定させる力が低下します。それによって膝が「ぐらつく感じ」「折れそうな感じ」として自覚されることがあります。膝の軟骨や靭帯には問題がないのに違和感が続く、という場合には、こうした筋肉側の問題を疑う視点が大切です。
また、ハムストリングスの損傷は再発率が高く、適切にケアされなかった場合は慢性的な問題として残りやすいことも知られています(Andrews et al., 2025, Sports Medicine)。
10年以上前の出来事が今も影響しているとしたら、まさにこのパターンと考えられます。
東洋医学的な見立て
私は鍼灸師として施術を行うとき、触診によって筋肉の状態を丁寧に確認していきます。
この患者さんの場合、ハムストリングスに「虚している(きょしている)部分」——
10年前の登山が原因? 膝の違和感が続いている方へ
「膝が反対側に折れそうな感じがする」
そんな不思議な感覚を訴える患者さんが来院されました。
痛みはそれほど強くないのに、なんとなくおかしい。しかも思い当たることといえば、10年以上前の登山で下り坂を駆け降りたこと——。
実は、この「時間差で出てくる膝の違和感」、ハムストリングス(太ももの裏側の筋肉)のダメージが深く関わっていることがあります。
下り坂って、思っている以上にハムストリングスを痛める
登山の「下り」は足腰に優しそうに感じるかもしれません。でも実は、筋肉への負担という点では上りよりもずっとダメージが大きいのです。
その理由が、「遠心性収縮(えんしんせいしゅうしゅく)」という筋肉の働き方にあります。
筋肉の収縮には大きく2種類あります。
求心性収縮:筋肉が縮みながら力を発揮する(荷物を持ち上げる動作など)
遠心性収縮:筋肉が伸びながら力を発揮する(ブレーキをかける動作)
下り坂を歩くとき、私たちの体は重力に引っ張られながら一歩一歩ブレーキをかけています。このとき下肢の筋肉は引き伸ばされながら力を出す「遠心性収縮」という状態になっており、ハムストリングスもこの強い負荷を受け続けています。
遠心性収縮は通常の筋収縮に比べて筋線維へのダメージが大きく、健常な若年男女を対象にした実験でも、下り坂歩行は上り坂に比べて翌日の筋肉痛が有意に強く、心拍数や主観的疲労感が低いにもかかわらず筋ダメージが大きかったことが報告されています(Kawanishi et al., 2018, The Journal of Physiological Sciences)。特に急な斜面を駆け降りる場合は、そのダメージがさらに増します。
なぜ「膝」の症状として出るのか
膝が痛い、膝に違和感がある——そう聞くと「膝関節そのものに問題がある」と思いがちです。でも実際には、膝の周囲の筋肉や腱のトラブルが原因で、膝の症状として感じられるケースは少なくありません。
ハムストリングスはまさにその代表例です。太ももの裏側を走り、膝の裏側に付着しているこの筋肉が傷つくと、膝関節を安定させる力が低下します。それによって膝が「ぐらつく感じ」「折れそうな感じ」として自覚されることがあります。膝の軟骨や靭帯には問題がないのに違和感が続く、という場合には、こうした筋肉側の問題を疑う視点が大切です。
また、ハムストリングスの損傷は再発率が高く、適切にケアされなかった場合は慢性的な問題として残りやすいことも知られています(Andrews et al., 2025, Sports Medicine)。10年以上前の出来事が今も影響しているとしたら、まさにこのパターンと考えられます。
東洋医学的な見立て
私は鍼灸師として施術を行うとき、触診によって筋肉の状態を丁寧に確認していきます。
この患者さんの場合、ハムストリングスに「虚している(きょしている)部分」——つまり、充実感がなく、ぺたっと凹んだような質感の箇所——が触知できました。
東洋医学では、気や血の巡りが滞ったり不足したりしている組織は、触れたときの弾力や厚みが変化すると考えます。この「虚」の状態を整えることが、施術の入口となります。
そこで、灸頭鍼(きゅうとうしん)を行いました。鍼の柄にお灸を取り付け、熱をじんわりと深部まで届ける方法です。施術後、虚していた部分が徐々に「平(へい)」の状態——気血が満ちて均一になった状態——に変化し、それとともに膝の違和感も和らいでいきました。
まとめ
下り坂では、ハムストリングスが「伸びながらブレーキをかける」という強い負荷を受けている
この遠心性収縮によるダメージは、適切にケアされないと長期間残ることがある
膝の症状が必ずしも膝関節自体の問題とは限らない。周囲の筋肉が原因のことがある
膝の「折れそうな感じ」や「ぐらつき感」は、ハムストリングスの機能低下が関係していることがある
触診で状態を確認し、灸頭鍼によって組織の質を整えることで症状が改善するケースがある
「昔に痛めたはずなのに、今も調子が悪い」という場合、その原因が10年前に遡ることは決して珍しくありません。気になる方は、ぜひ一度ご相談ください。
参考文献
Kawanishi N, et al. (2018). Effect of downhill walking on next-day muscle damage and glucose metabolism in healthy young subjects. The Journal of Physiological Sciences, 68, 551-557.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10717950/
Andrews MH, et al. (2025). Hamstring Injury Mechanisms and Eccentric Training-Induced Muscle Adaptations: Current Insights and Future Directions. Sports Medicine.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC12513929/
、充実感がなく、ぺたっと凹んだような質感の箇所——が触知できました。
東洋医学では、気や血の巡りが滞ったり不足したりしている組織は、触れたときの弾力や厚みが変化すると考えます。この「虚」の状態を整えることが、施術の入口となります。
そこで、灸頭鍼(きゅうとうしん)を行いました。鍼の柄にお灸を取り付け、熱をじんわりと深部まで届ける方法です。施術後、虚していた部分が徐々に「平(へい)」の状態——気血が満ちて均一になった状態——に変化し、それとともに膝の違和感も和らいでいきました。
まとめ
下り坂では、ハムストリングスが「伸びながらブレーキをかける」という強い負荷を受けている
この遠心性収縮によるダメージは、適切にケアされないと長期間残ることがある
膝の症状が必ずしも膝関節自体の問題とは限らない。周囲の筋肉が原因のことがある
膝の「折れそうな感じ」や「ぐらつき感」は、ハムストリングスの機能低下が関係していることがある
触診で状態を確認し、灸頭鍼によって組織の質を整えることで症状が改善するケースがある
「昔に痛めたはずなのに、今も調子が悪い」という場合、その原因が10年前に遡ることは決して珍しくありません。気になる方は、ぜひ一度ご相談ください。
参考文献
Kawanishi N, et al. (2018). Effect of downhill walking on next-day muscle damage and glucose metabolism in healthy young subjects. The Journal of Physiological Sciences, 68, 551-557.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10717950/
Andrews MH, et al. (2025). Hamstring Injury Mechanisms and Eccentric Training-Induced Muscle Adaptations: Current Insights and Future Directions. Sports Medicine.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC12513929/
